前回の続きを書くといいつつ、そのままになっていた。
その間にもブログのネタが持ち込まれたので紹介したい。シャペロニンタンパク質に関するサイエンスの内容も少し含むはずである。
先月、お茶の水女子大附属高校でのウインターレクチャーというのを担当することになり、「タンパク質は “かたち”がいのち」と題した講義を高1、2生向けにした。そのあと、お茶大の佐藤敦子さんがホストで大学学部生や院生などにセミナーし、さらにラボでの忘年会にもお誘いいただいた。
楽しい時間を過ごし、そろそろ帰ろうかというときにプレゼントがあるという。佐藤さんいわく、「田口さんのためと思って探してきたモノです」と。
開けてみると、中にはニンニクが一個入っていた・・・。
おや、と思って、よく見ると、ピンときた。で、房を数える。
1、2,・・・・7!
つまり、房が7つのニンニクということで、私が長年研究している7量体リングからなるGroELもどきだったのだ(注1)。
うれしくなって感謝を述べ、その場でかじるわけにもいかないので、家に持ち帰り、料理に使わせてもらった。
さて、この7量体ニンニクを見ながら、ちょっといびつだよなぁって思ったところで、思いだした私たちの以前の研究がある。
それは、好熱菌のシャペロニン複合体の構造を決めたら、大腸菌のGroELと違って、7回対称が崩れてていびつだったのだ(
Shimamura T. et al, Structure 12, 1471-1480, 2004 当時まだイギリスにいた岩田想さん、島村さんらとの共同研究)。なぜ対称でなくひずみが出たかというと、それはこのシャペロニン複合体には基質タンパク質が空洞内に詰まっているからだという結論である(注2)。
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Shimamura T et al. Structure 2004より抜粋。左が好熱菌GroEL/ES複合体のGroEL部分。対称性が崩れていて、二種類の構造(I型とII型)の混合となっている。右側は大腸菌のGroELで7回対称のリングである。 |
最初に論文を投稿した際、レフェリーにこのいびつな構造が信じてもらえず、苦労したのだが、その後、電顕での構造でも同様の7回対称の崩れが確認された(
Kanno R et al, Structure 17, 287-293, 2009 光岡薫さんらとの共同研究)。
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Kanno R. et al, Structure 2009より抜粋 |
さらには、他のグループも最終的には非対称なGroELリングを認めて論文に載せている(例えば、
Chen D-H et al Cell 2013)。
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Sakikawa et al JBC 1999より |
GroELは空洞内に基質タンパク質を閉じ込めた際、閉じ込めたタンパク質によってはけっこう窮屈だということは以前の研究から予想されていたが(例えば、私たちの
Sakikawa C et al J Biol Chem 1999 など)、実際GroELのカゴ構造にまで影響を及ぼしているということを意味する。
ということで、ニンニクを眺めながらGroELに思いを巡らさせてくれた佐藤さんに改めて感謝したい。
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注1:通常のニンニクの房の数がいくつくらいなのかよく知らないが、6~10房くらいだろうか。
注2:ついでに言えば、その論文では、空洞内に閉じ込められた好熱菌シャペロニンの基質タンパク質20数種類の同定も質量分析で行った。