ラボに導入された3Dプリンターでシャペロニン模型
 1年ほど前の本ブログにて、3Dプリンターで作成したシャペロニンの模型を貸してもらった旨を掲載した。→「シャペロニンの模型が手元に!
 そこで紹介したタンパク質模型は川上勝さん(現・山形大学・工・ライフ3Dプリンタ創生センター)が作り方を考案した非常に凝ったもので気軽に作れるモノではない。

 その川上さんが、最近出回ってきた廉価版の3Dプリンターでもタンパク質模型作れますよ、とおっしゃっていた。学内のある会議の雑談?で、「東工大・生命理工でも3Dプリンターを導入していろいろ活用しはじめてはいかがでしょうか?」と意見したところ、研究科で購入してくれることになった。川上さんにどの機種がよいのかなどアドバイスをいただいて、購入し、さしあたりうちのラボに置いてある。本体(UP! Plus2)は10万円台の機種だ。

 「いろいろ活用してはいかがでしょうか?」とは言ったものの、ノウハウなどない中で「何」を「どう」作るのかが問題である。そんな中、川上タンパク質モデルを実際に作っている3D印刷業者さん(スタジオミダス)がラボに来る機会がたまたまあり、その際に、導入したのと同じプリンターで作ったシャペロニン模型と、それを印刷する際の元ファイルをいただいた。このファイルでまずはシャペロニンを「印刷」してみた。

 以下がうちのラボにある3Dプリンターで「印刷」したシャペロニンGroEL(白)とGroES(黄色)である。


 大きさは直径が7~8cmくらいだろうか。以前紹介した川上モデルのGroEL/ES模型より一回り以上小さい。
 以下はGroELとGroESの複合体。右側はスタジオミダスさんよりいただいた模型である。樹脂がちがうようで同じプリンターで作ったとは言え、質感が若干ちがっている。


 当初は、PDB(Protein Data Bankもしくは日本PDB)から入手できるタンパク質の3次元座標情報をどのように3Dプリンター用のフォーマットに変換するのかわからなかった。しかし、ラボの学生がいろいろ調べて試行錯誤してくれたおかげで、今ではPDBファイルを3Dプリンター用に変換して、シャペロニン以外のタンパク質でも印刷できるようになった(注1)。

以下は「印刷」途上のようす。


 できると「おぉー」となるが、いろいろと問題点もある。

(1)まず、3Dプリンターでの模型は「印刷」後にすぐに完成しているわけではない。複雑な形状のモノを作る際には不安定な部分を支えるための余分な「バリ(サポート材)」も大量に印刷される。実際、上の写真で印刷されている外形のほとんどはサポート材だ。なので、実際には印刷完了後にけっこうな時間をかけて黙々とバリ取りをするという面倒がある。

(2)印刷自体もかなり時間がかかる。数時間から一晩かけてかたちができあがっていく。

(3)つくるタンパク質にも向き不向きがありそうだ。シャペロニンは空洞がある特徴的な形状なのでこのプリンターで作っても非常にわかりやすいが、分子量数万の球状タンパク質だと印刷してもあまり印象的ではないかもしれない。

(4)単色である。樹脂を変えると色違いのはできるが(上のGroESは黄色い樹脂を使用)、一つのタンパク質内でマルチカラーにはできない。(プラモデルの塗装が趣味ならばいい素材になるかもしれない)

 ということで、問題点や制限はあるのだが、自分のところでGroELとGroESの簡易模型ができたのは素直にうれしい。今後さまざまなタンパク質をプリントアウトして楽しむと同時に、PR活動、さらには実際の研究にも活用できないか模索していきたい(注2)。

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注1:この模型の作製にはラボの星君、和泉君を筆頭とした何人かが時間をかけて試行錯誤してくれました。どうもありがとう。

注2:本プリンターは研究科の予算で購入いただいたので、東工大・生命理工の方で興味のある方はお気軽にご相談ください。