昨年度より東京工業大学では学部1年生全員(1~7類)が生命科学を必修として履修することとなった。その流れで、教科書で生命科学を教える以外でも全学生に生命科学研究の最先端、面白さを伝えよう、ということでGFP(緑色蛍光タンパク質)を主役として、蛍光が出るしくみの化学から細胞生物学まで全類の学生に教える講義も準備され、私も担当している。
その教材として、GFPの立体構造模型を昨年度初めに特注で作ってもらった(スタジオミダス制作)(注1)。
なかなかカッコイイでしょう。
このようなリボンモデルの3Dプリンター模型は自分自身は初めてで美しい。
GFPはβシートが樽状にぐるっと巻いているためにβバレル(樽)と呼ばれることがあるが、それがはっきりとわかる。
βシートのことを知っている人だとこの白い矢印(βストランド)部分だけではシート状にならず形を保てないのではと思うかもしれない。その通りで実際には白いストランド間を細い棒で一部補強してある(下の写真の赤矢印)(注2)。実際のタンパク質ではこの棒が水素結合として全体をシート状にして立体構造を安定化している。GFPはβシートがとてもきれいに並んで「缶」のようになっているためにとても安定で60℃くらいに熱しても変性しない(色が消えない)し、冷蔵庫で何年も光ったままだ。
同じGFPをラボにある廉価版の3Dプリンターで打ち出すと以下のようになる。
何かよくわからない「塊(かたまり)」である。
空間充填モデルで打ち出すとこうなるのだ(注3)。
元の美しいGFP模型に戻ろう。
リボンの中に見える緑の部分はGFPの蛍光団である。ここだけ空間充填モデルになっているが、ここも元はアミノ酸である。特定のアミノ酸配列(GFP野生型ではSer-Tyr-Glyの3アミノ酸)がGFPの立体構造の枠組みの中に配置されると化学反応(脱水反応と酸化反応)が自発的に起こって特別な蛍光団が形成される。タンパク質というのは本当に何でもやってしまう一例である。
スタジオミダスさんは凝っていて、この蛍光団に蛍光塗料を塗ってくれ、さらにはこの模型を置く台座にライトを付けてくれた。光らせたのが以下である。
さて、先ほどラボで打ち出した塊は何だかよくわからない、と書いたが、実際には塊の方が正しい状態と言えて、内部の緑に光る蛍光団はタンパク質の奥に埋もれている(水のない環境に蛍光団が置かれているのが光る理由の一つでもある)。
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注1)
今回のGFP模型の写真はスタジオミダスさん撮影(GFPの塊の以外)。なお、このエントリーは下書きまでしていたが、すっかり放置していた・・・。
注2)
この1年間でそれなりにあちこちで展示して触っている間に、この補強の棒が折れてしまい、形が崩れやすくなってしまった(現在修理中)。
注3)
このプリンターで学生にGFPのリボンモデルを一度打ち出してもらったが、うまく造型できなかった。
ちなみに同じ空間充填モデルでもシャペロニンGroELーGroES複合体は以下のようになる。GroELは巨大タンパク質複合体で空洞があるからサマになるのだ。スケールは全然違っていて、GroEL(やGroES)の縮尺でGFPを打ち出すとGroESよりも小さくなるくらいだ。GroELの空洞内にGFPが2個分ハマることを実験的に証明したことがある(Sakikara et al., JBC 1999)。
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