新著紹介「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ」
 一般の方、受験生へ向けての新著の紹介だ。

 「池上彰が聞いてわかった生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ」
 著:池上彰, 岩崎博史, 田口英樹(朝日新聞出版)
    → 出版元のサイト(「立ち読み」あり)、→ amazon.co.jp

http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=18376

 この本では、ジャーナリスト池上彰さん(東工大特命教授)が問いかけた生命科学に関する疑問に田口と岩崎博史さん(東工大・研究院/生命理工)の二人が答え、さらに池上さんが一般社会との類似点などを指摘したりしてまとめる、という対談形式で生命のしくみのエッセンスを理解してもらう主旨である。

以下、宣伝用の文章と章立て。
 暗記科目と思われがちな生物は、「分子の視点」で理解できる!?  遺伝子やゲノムなど、大人として最低限知っておくべき生物の知識について、池上さんが質問し、最先端の研究をしている東工大の教授が解説し、池上さんの視点で解釈する。
第1章:生きているって、どういうことですか
第2章:細胞の中では何が起きているのですか
第3章:死ぬって、どういうことですか
第4章:地球が多様な生命であふれているのはなぜですか
特別対談:どうして今、生命科学を学ぶのですか
   実際に池上さんと行った対談を元に構成されているので、勢いがあるというか、臨場感にあふれている。これまでいろんな入門書で挫折してきた方々にもかなり読みやすいのではないかと自負できる内容だ。

また、田口と岩崎さんだけでなく、ノーベル賞有力候補の大隅良典さん(東工大栄誉教授)にも一部ご参加いただき、専門のオートファジーの解説や生命科学を学ぶ意義について池上さんと熱く語り合っていただいた。

 ということで、執筆陣が全て東工大教員というのも強調したい。
 東工大は工学系で知られており、生命科学なんてあるの?という方もいるかもしれないがそんなことはない。田口と岩崎さんも所属する生命理工学院(受験時の分類では7類)は「幅広い分野から生命理工学を学べる国内最大規模の教育研究組織」ということで、実際、70以上の研究室を擁している。受験生のみなさん、東工大7類の受験をぜひご検討ください(→東工大受験生向けサイト)。生物について興味はあるけどよく知らないという受験生のあなた、7類の1年生の多くは生物学についてほぼ知らない状態で入ってくるのでだいじょうぶ。学びたい分野も受験の時点で決まってなくてもOKだ。あとで幅広い分野から選べる。ただ、生命についての入門は本書でしっかり勉強しておくのが望ましいかもしれない(!)。
もちろん、修士や博士後期課程からの入学も大歓迎である。

 表紙で池上さんの写真のバックに見える図は何かわかるだろうか?
 これは、回転するタンパク質、ATP合成酵素の一部(F1部分)の立体構造である。
 この本では、「分子の視点」で生命を理解する、というのを主眼の一つにしているのだが、イキイキと動く分子の象徴が、生命のエネルギー通貨であるATP(アデノシン三リン酸)を合成するATP合成酵素というわけだ。実際、対談中にF1がくるくる回るようすを動画で池上さんに見ていただいたところたいへんに驚いていた。
 さらには、ATP合成酵素のF1部分が回転するのを証明したのが東工大という縁もある(恩師の吉田賢右ラボ(元東工大)と故木下一彦ラボ(当時慶應大)の共同研究)。

 以上、ありそうでなかったタイプの生命科学の入門書ではないだろうか。「生きている」とはどういうことなのか分子の視点で知りたい方、昔習ったはずだけどもう一度復習したい方には打ってつけの本である。このブログの読者に多いと想定される生命科学の研究者、大学院生なども、ぜひ手にとって、よいと思われたら周囲の方にお勧めしていただければうれしいかぎりだ。

 最後に、この池上さんとの本を読んでもう少し深めたいと思った方への宣伝。
2年前に「学んでみると生命科学はおもしろい」田口英樹著(ベレ出版)を出版した。内容的には池上さんとの本とオーバーラップしつつも田口の考える生命観がより濃く出ているのでぜひどうぞ。( →ブログでの紹介、→ amazon