京都にて東寺に立ち寄った。
新幹線で京都駅から新大阪方面へ出発してすぐに見える五重の塔が東寺の境内にあることはよく知っていたが、行ったことはなかった(いや、もしかしたら、中学か高校の修学旅行で行ったかもしれないが・・・)。
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東寺 御影堂 |
思っていた以上に見応えのある素晴らしい仏像たちを拝んだあとに、境内をぶらぶらと歩いていた。
この御影堂というお堂も国宝なのか、などと思いつつ、ふと目に留まったのが提灯の紋である。
一目見て、おや?と思い、近づいてしっかり数えてみる。
1,2,3,・・・7。
シャペロニンGroELだ! である。 拡大写真を載せる。
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東寺にて |
いったん見つけると、この紋が描かれている提灯は東寺境内あちこちにあるのがわかった。
ネットで調べると、この紋は 外側の7つの塊の「雲」に加えて、内部の「雲」を合わせて「八雲(やくも)」というらしい。
どうGroELに似ているのか。
GroELは7量体のリングが二つ積み重なったダブルリング構造である。
その一層リングの一部を上から表示したのが右の図。
7量体というのはタンパク質の多量体構造の中でもそれほど多いものではない。
しかも、もう一つ面白く思ったのは、この紋は7つの塊が一筆書きでつながっている点だ。
というのは、GroEL遺伝子を7つつなげ、「一筆書きGroEL」を精製して、GroELの7つのサブユニットの重要性を調べた研究が、Horwichらによって実際に行われたからだ(Farr GW et al, Cell 2000)。GroELのサブユニットのN末とC末は距離が近いので、左図のようにC末と次のN末を適当なリンカーでつないで大腸菌で発現させ、精製することができる。この「一筆書きGroEL」は東寺の紋にそっくりである。
ちなみに、この共有結合でつながったGroELを使うと、任意のサブユニットに変異を入れことが可能となる。例えば、図の3と6のGroELサブユニットの基質タンパク質認識部位をつぶす、というようなことができるわけだ。上述のHorwichらの論文によると、GroELの7つのサブユニットは全てがアクティブでなくてもよく、3〜4個は基質タンパク質やGroESを結合しなくても、GroELのシャペロン機能はほぼ維持されるらしい。
さらに、東寺の紋が示唆に富むのは、内部に「雲」が描かれていることである。上の図にも描きこんだように、GroELが基質タンパク質を内部に取り込んだようすとそっくりである。
ということで、東寺の紋は本当にGroELにそっくりであり、GroELのロゴとして最適と言っていいだろう。密教の世界の深奥さを垣間見たというか、率直に本当に驚いた。
海外でのスライドなどでも使えるかもしれない。
何でもっと早く気付かなかったのか悔やまれる限りである。