最近、滞りがちのブログだが、いいネタが手に入った。例によって、出張先で見つけた一品だ。真冬のヨーロッパの街を歩いた甲斐があったというものである。
一見、これまでに何回も紹介してきたふつうのキューブパズルに見えるかもしれない。
ここで、これまで紹介した典型的なキューブパズルの写真を見てみよう。
もうわかるであろう。
今までのは一辺が3つからなる 3×3×3 なのに対して、今回のは 4×4×4 である。
今までのが 3×3×3 = 27 だったのに対して、今回のは 4×4×4 = 64「アミノ酸」ということになる。当然、キューブのかたちを崩して「変性」させたあと、元に戻す「フォールディング」は難しくなる。
以下、キューブを崩して「変性」させた状態。
途中まで戻した状態。
と、自力で戻したわけではなく、購入時に付いてきた解法を元にしている。
この解法が、実際のタンパク質のフォールディングにちなんでたいへん興味深い。
これまでの3×3×3パズルでは、片側から順にかたちを作っていけば完成するのだが、今回付いてきた解き方はちがう。最初は片側からかたちを作っていって塊を作ったあと、反対側からかたちをつくってもう一つ塊を作る。すると、下の写真のように二つの塊ができるので、この二つを合わせることで立方体となり完成だ。
この写真のNとCの記号は何なのか、生化学を学んだ方ならすぐにわかるだろう。タンパク質になぞらえてみたのだ。
タンパク質はアミノ酸がつながったヒモだが、細胞内のリボソームというタンパク質合成装置でつながっていくときには向きがある。最初のアミノ酸がN末端、最後がC末端と呼ばれる。これをこのパズルに当てはめる。最初に作っていくのがN末端側の塊(ドメインと呼ぶ)、後半の方はC末端側のドメインだ。
最後にできたキューブのどこに末端があるかというと次のようになる。
実際のタンパク質の立体構造で、アミノ酸の数が少ないタンパク質では塊(ドメイン)が一つだが、アミノ酸が増えて長くなるにつれて、塊がいくつもに分かれてくることが知られている。塊が一つだとフォールディングも比較的簡単だが、塊が増えてくると塊ごとにフォールディングが進むと考えられているのだ。
このくらいのパズルでもフォールディング機構の一端を垣間見ることができるということである。
街で一番大きいと思しきデパートのおもちゃ売り場にふつうに置いてあった。珍しかったので何個も大人買いしたかったが、一個しかなかった。