シャペロニンGroEL

 

 

 

シャペロニンGroEL:タンパク質フォールディングのゆりかご

【シャペロニン】シャペロニンはタンパク質のフォールディングを助けるすべての細胞に必須の分子シャペロンの代表です。シャペロンの概念が醸成されていくきっかけにもなりました(シャペロンとシャペロニンは混同されがちですが、シャペロンはシャペロン的に機能するタンパク質の総称で、代表的なものにHsp70/DnaK、Hsp90、Hsp104/ClpB、そしてシャペロニン(GroEL/CCT)などがあります。シャペロニンはシャペロンという大きな集団の一つにすぎません)


【GroEL:バクテリアのシャペロニン】
バクテリア(真正細菌)のシャペロニンはGroELと呼ばれていて、大腸菌のGroELがもっとも研究されています(全てのシャペロンの中でも最もよく研究されているとも言えます)。大腸菌では、GroELと補助因子であるGroESは共に必須のタンパク質で、数百のタンパク質のフォールディングを助けていると言われています。


【GroELの構造】
GroELの形は「かご」状の7量体リングが2層に重なった構造をとります。GroELATPの結合にともなって、補助因子である「ふた」状のGroESと複合体を形成します。このGroEL-GroES複合体内部には巨大な空洞ができて、その中でタンパク質のフォールディングが最後まで進行することがわかっています。

 


【GroELの機能】
タンパク質は基本的には自分自身でフォールディングできます(アンフィンゼンのドグマ)が、フォールディングの途中は不安定で、その不安定なもの同士が集まると不可逆に凝集体になってしまいます(ゆで卵のイメージ)。GroELなどシャペロニンの第一の機能は、リボソームで産まれてきた新生ポリペプチドや何らかの理由で変性した蛋白質(まとめて基質タンパク質)を「結合」することで凝集になるのを阻止することです。ですので、下図の写真にあるように、卵白が熱で凝集するような条件(つまり、ゆで卵)でシャペロン(GroEL)を溶液に加えておくと、凝集ができなくなります(ただし、この実験で使っているGroELは温泉に住んでいる好熱菌から取ったものです)。

 


【GroELの作用機構】
シャペロニンGroELが基質タンパク質を結合している間、捕まっているタンパク質のフォールディングは止まったままである。この状態にATPGroESが結合すると、捕まえていた基質タンパク質を「放出」する。放出は、シャペロニンの空洞内、外の両方があるが、空洞内に基質タンパク質が閉じ込めた場合には、シャペロニンの「ゆりかご」の中で基質タンパク質は安全にフォールディングすることができる。(せっかく天然構造になっても閉じ込めたままではタンパク質が活躍できない。では、どうやって外に出るのか?については、下に示した総説pdfをお読みください。)


【GroEL研究の今後】
作用機構はかなり細かくわかってきたとも言えます。では何が残された課題なのでしょうか?

・空洞内フォールディング

 GroELの作用機構の本質は、フォールディングのための安全な空間と時間を提供するものであって、フォールディングそのものには影響しない、というものである。しかし、GroEL/ESの空洞内で起こるフォールディングは自発的フォールディングよりも速い場合がある。シャペロニンのゆりかごの中ではフォールディングの性質自体が変わるのだろうか?

・細胞内での役割

 大腸菌では全蛋白質の510%がシャペロニン依存でフォールディングすると考えられていて、現在そのリスト作りがプロテオム解析などにより進められている。今後は、GroELがなければ天然構造に到達できえないタンパク質が細胞内に存在するのか、ということが焦点になろう。

Anfinsenのドグマへの挑戦

 フォールディングが完全にシャペロニンに依存してしまって自発的にフォールディングできなくなってしまったタンパク質はあるのだろうか? そんなタンパク質では“Anfinsenのドグマは成立しないのかもしれない。

 
【より詳しく知りたい方】

 日本語で書かれた総説で無料でpdfが入手できるものがあるので以下に記しておきます。

・「シャペロニンはどのようにATPを利用するのか?」(田口英樹)蛋白質核酸酵素 47, 1196-1202 (2002)

・「シャペロニンGroELの作用機構:ATPと変性蛋白質の役割」(田口英樹) 生物物理 46, 130-136 (2006)